マンション傾斜どうして起こったのか?

今話題になっているマンションの傾斜問題について連日報道が行われています。日々明らかにされる不正・手抜き工事などを大手企業が行ったというインパクトは計り知れません。居住者の方々が日々不安な日々を過ごされていることを気の毒に思うと同時に、建築に対する信頼が大きく損なわれたこの事態をとても残念に思います。建築業界では何年かおきにこうした不正が明るみに出ます。原因を一つに特定する事はできないにしても、何故このように繰り返し起こってしまうのか少し考えてみます。

構造上の問題

昨日のニュースでは「建築業界特有の構造に問題」があるとコメントしていました。いわゆる親・子・孫というような請負制度です。例えば同じブランドのマンションについて、企画販売をする有名企業がA,Bという二つのマンションを建てたとします。同規模の隣接するマンション、同じグレード、仕様によって建てられたとしても、それぞれを手掛けるのは異なる下請け会社。A,Bの強度、性能はこれら下請け会社の技量・企業倫理によって全く異なるものになってしまう事があるという説明です。

元請と下請け

建築業界では自らの名前において施工をする会社を元請、元請から依頼を受け実際に施工を行う会社を下請けと呼びます。元請は設計・企画・施工管理そしてエンドユーザーへの対応と言った大枠の仕事を行い、その監督・指示の元に下請け会社が施工するという構造が現に存在し認められています。下請けというくくりはさらに、子、孫、ひ孫と枝分かれしていき、一つの工事に膨大な数の会社(個人企業含)が関わる事になるのです。そうなるとそれぞれ方針・技量の異なる幾つもの会社の中に、悪質な業者が混じってしまえば全体として品質の劣る工事が行われてしまいます。

下請け会社は選べない

C会社施工と言っても実際にC会社が施工するわけではないとすると、何を見て選択をすればいいのでしょうか。Cという会社の下請け会社は恐らく一つではないでしょう。そして、その下請け会社全てを公にする事はまずありません。公開するとしても一次下請けだけです。あくまでCという会社が陣頭指揮をしてできあがる建物を信頼して、そのC会社を選ぶしかないのですから、構造的に問題があると言われても仕方のない部分があります。

チェック機能

結局は元請の管理・チェック機能が十分に働くかどうかに建物の良し悪しがかかっていると言わざるを得ません。監督官庁、その他関連機関による監視・チェック体制がどんなに整えられようと、全ての工程を隅々まで検査する事は不可能ですから、自ずと限界があります。こうした問題が起こるたびに、再発防止に向けた法制度が整えられるのですが、根本的な解決には至っていません。

過当競争

建築コストは一頃に比べると随分安くなりました。こんな価格で販売するんだ・・・と思うような設定が今は当然の事となっています。これはひとえに過当競争の結果なのではないかと私は思います。市場経済では競争は当然ですから、消費者にとっては喜ばしい事です。ですが、ここが他の業界と異なる問題を引き起こします。

請負契約は代金後払い

建築における請負契約と言うのは他の契約と決定的に異なる性質を持っています。通常の取引では商品と代金の支払いは同時に行われます。対して、請負契約では先に工事を行い終了後に後払いとして報酬を受け取ります。商品の製造・販売にいくらかかるか、その経費に利益を載せて販売すれば、理論的には赤字になりません。ところが、請負では最初に請負代金を決め、その後どれだけ経費がかかろうが赤字になろうが、基本的には当初の金額以上のものは支払われません。

赤字決定その時に

請け負ったはいいが、工事を進めるうちに思わぬ出費がかさみ、このままでは大きな損失を受ける。そうなるとどうなるでしょうか?途中話し合いを持って追加料金をもらえるならば問題ありませんが、世の中そう甘くありません。追加がもらえないか、もらえても損失を補てんできないならば、それをどこかで補わなければならなくなります。ある時は他の現場での利益でまかない、またある時は銀行から資金を借り入れその状況を乗り切ります。でも、どうにも手がないとしたら、ひょっとしたら手抜き工事をして切り抜けるかもしれません。

過当競争の果てに・・・

デフレは他の業界同様、建築業界にも平等に行き渡りました。過当競争とまで言わなくとも、相当な競争が行われ、建築費用はかつてと比べ物にならないほど下がりました。それは恩恵だけでなく不利益ももたらしてしまうという事をわかっていただきたいと思います。世の中にはきっと適正価格という物が存在します。適正であるがゆえに、安心して、長期に渡って利用できる。それを下回るとどこかにひずみが生まれてしまうのです。建築は時間差で問題が露出します。完成直後問題がないにしても、数年、数十年後に問題が起こり、しかも取り返しがつかないというものもあります。元請は絶対に損をしない構造になっていて、泣きを見るのは下請けです。その下請けが生き残るためにやってはいけない事に手を染めてしまうという事があるのです。多くの人は知らないだけで、わからないよう上手に手抜きをして、息も絶え絶えでもなんとか生き残っているというのが少なからぬ職人さんたちの現実なのかもしれません。

問題解決のために

ではこうした不正をどのようにしたら防げるのでしょうか。前述した建築業界特有の構造の問題は容易には解決しないでしょう。何故なら建築は専門性が高いため、一般の人がその良し悪しを判断しにくいからです。どの会社が優れているのか、どの会社が劣っているのか判断しようにも、施工事例や施工の様子を見てもわからないでしょう。知名度のある会社なら大丈夫と任せたら実際は下請け会社が施工する。ならば下請け業者を独自に見出せば大丈夫かと言えばそれも難しい。下請けが営業に力を入れたらそれはもう元請であって、いずれ自ら施工しなくなるかもしれない。「自社直接施工」を謳っているのに、裏に回ると協力業者を集めている裏事情を知る身としては、元請と下請けと言う業態はこれからも続くのだろうと思うのです。となると、こうした元請、下請けという構造のまま、いかにして優良な施工が行われかを考えねばなりません。逆に言うと、不良な施工が行われないためにどうすれば良いのかを考えなければならないという事です。これはチェック機能云々だけでは難しいと思われます。

生の声、現場の声

今のようにインターネットが普及すればもっと現場の声が聞こえてきても良さそうなものです。ところが、職人さんたちはアナログな人が大勢を占めます。未だに現場風景や施工内容を実況するようなサイトが少ないのがそれを物語っています。世間一般に実情が知られていけば、それを見る多くの人が建築についてもっと知る事ができるでしょう。「この人なら施工をお願いしたい」そう思える職人さんと出会えるかもしれません。そうすれば元請=施工業者という構図も徐々に成り立っていくのではないでしょうか。仕事をとるためには広告を出さなければならない。でも広告を出そうにもお金がないよ。そんなまじめで一生懸命な職人さん、中小企業がもっと積極的に情報を発信していけば、比較対象できるソースも増え、発注者、受注者双方にとってメリットがあると思います。今建築費用は徐々に上がり始めました。もうこんなに安くちゃ仕事できないよっていうくらい職人さんが追い込まれ、その数が減ったのも一因でしょう。こうしてだまっていてもバランスはとれるのでしょうし、今がその過渡期なのかもしれません。ただ、そうした自然調整にまかせるだけでは、根本的な解決にはなりません。単価が持ち直したから不正をせずに済むようになったというのでは甚だ心許ない。そうではなく、世間一般がわかり易い建築、透明性の高い建築を目指していかなければ、いたちごっこです。そのためにも、今のこのインターネットをもっと活用していけないものでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

2015年10月21日